通称アケボノゾウ、学名は
Stegodon aurorae。復元の元になったのは、滋賀県多賀町で発見された、非常に保存状態の良い個体からである。この復元画を制作したのは2008〜2009年だが、このアケボノゾウの標本の復元作業は発掘直後に行われており、リアルな復元模型も作られていた。そんなアケボノゾウをなぜ再度復元したのか?今回の復元画の監修者である小西省吾さん(
みなくち子どもの森自然館)は、発掘直後の骨格復元の監修者でもあるのだが、当時から自ら復元したアケボノゾウの姿勢に疑問を感じており、機会があればやり直したいと考えていたということだった。骨格復元をやり直す事が決まっており、それと同時に復元画を描く事ができたのは幸運だった。
かつてのアケボノゾウは胴長で短足、ダックスフントのような絶滅ゾウだというのが定説だったが、再検討した結果、現生のゾウと比べてそれほど違うプロポーションではないことが分かったのである。
従来のアケボノゾウ。肩甲骨の位置が低く、前脚が短く感じられる。
新しく組み立てられたアケボノゾウ。肩甲骨の位置が大きく違う。
ふたつの骨格を重ねてみたもの。重要なのはどちらも全く同じ標本を使っているということだ。復元の違いで、これだけシルエットに差がでてしまう。このまま肉付けをしたら、違った種に見えるだろう。
復元画を描くために描き下ろした骨格図。
正確とは言えない部分もあり、あくまでも推測ではあるが、当時、筋肉を復元してみたもの。画像がかなりの枚数になるので、いくつかのエントリーに分けて紹介していこうと思う。
雑誌
BRUTUSから依頼のあった仕事で、「もし巨人が「生物」として存在し得るなら、それはどのような構造や生体をもっているのか。」というお題のもと、インタビュアーであり掲載記事をまとめてくださった橋本麻里さんに答える形で出来上がった1ページである。そこに挿絵として描いたのが「獣の巨人の骨格図」だ。
進撃の巨人の世界では、巨人たちはその巨体に似合わず、非常に軽いという設定がある。彼らは人間を捕食するが、咀嚼することはなく丸呑みにする。歯は鋭いので人間の身体を簡単に引き裂くことができるが、あくまでもとらえることを前提にしており、消化の助けのために歯を使うことはないようだ。こういった前提から予測し、巨人たちは爬虫類であり、中でも鳥類に近いのではないかという仮説を立てた。
最初のラフスケッチ。
直立二足歩行をし、身体を毛で覆われているので、一見、巨大な猿に見えるが、あくまでも鳥類として考察を試みてみる。
ほぼ完成に近いラフスケッチ。
頭部から見ていくと目立つ特徴として、強膜輪があること、大きく開いた側頭窓をもっていて、強い咬筋がつくスペースがあること、さらに矢状稜も発達している。頭骨のモデルにしたのはワニガメとオランウータン。歯は尖っていて、全て単一の形質を持っているように見える。これも爬虫類的な特徴である。胸には大きな胸骨があり、飛ぶことをやめて地上を走り回っているダチョウやエミューに似た形とした。平胸目とも呼ばれるグループだ。肋骨は胴椎にすべてつながっており、哺乳類のように胸と腰の区別がない。鳥のように骨盤までほぼ一体となって柔軟性のない胴体とした。
骨の内部には鳥のように中空で、軽く強い構造で作られていたと予測できる。でもこれだけであの巨体を軽く保つことは出来ただろうか?
完成した骨格図。
鳥だとすると呼吸器系は気囊により効率がよかったはずである。また、それらは骨の隙間にも入り込んでいただろう。骨の中も中空、気囊により身体の中は気体の入るスペースも多い、そんな特徴を活かすには空気よりも軽い気体を身体に溜め込んでいたと考えるのはどうだろうか。これについては、
こんな与太話を友人の研究者と考えたことがあったのだけど、空気よりも軽いガスを溜めた風船のような胴体を持つと仮定すると、極端に細くひょろ長い脚で歩いたり、走って素早く動くことができるのは不自然でないかもしれない。
巨人には外性器がないとされる。ということはこれも鳥類のような総排泄口を持っていたと考えるのが自然だろう。彼らに排泄が必要かどうかも定かではないが、あれだけ人間というたんぱく質を摂取するのだから、排泄物を出す器官があってもおかしくはない。生殖行為が必要かどうかは分からないが。
まあ、作者の意図とはまったく関係のないところでの考察だし、進撃の巨人の世界観を無視した部分もたたあるが、架空のキャラクターを生物として捉えると、どういったことが考えられるかという実験は、やはり面白いものである。