2017年08月11日 14:48
前回からの続き。ロバートさんから次のようなコメントと、修正指示を書いた画像が送られてきた。概ね、好評ではあるが、修正箇所は多い。
「さて,第2弾ラフスケッチありがとうございます.
おどろおどろしい感じが出て非常に良い雰囲気です!図にコメントを入れたものを添付しました.
大きなところとしては拡大図と全景図の区切りがわかりにくい気がしてきました.はじめてこの復元画を見た人でも,全景と骨の拡大図という2つの図が組み合わさっていることがもう少しわかりやすい方が良いと思いますが,いかがでしょうか?
もう一つ,骨の中の脂質(骨内有機物)をどう描くかをこの段階でつめておいた方が良いと思います.図内のコメントをご参考におねがいします.
> ウミガメの損傷はどれぐらいにしましょう?頭部はほぼ白骨化しているけど、体にはまだすこし表皮がなくなっているようなイメージです。
図へのコメントにも入れましたが全部白骨化していただいた方が良いと思いました.ホネクイハナムシやハイカブリニナ科の巻貝がすでにある程度成長している段階の図なので,数ヶ月は経過していて,その場合は骨は白骨化している状態にしていただいた方が良いです.
それにしても第2弾ラフでここまで雰囲気が出せるものだと改めて感心しました.」
ラフスケッチの場合、あえて描かなかったり、省略している部分があるのだが、そういったことは研究者には通用しない。常にすべてを説明できるようにしておく必要がある。ただ、そういった余地を残すことで、より修正に気付きやすくなる側面もあるように思う。この場合だと、手前の骨の断面に見える有機物と、それが失われた部分の差が明確に描写されていなかった。僕も意識できていたわけではないが、あえて省略していた部分もある。なるほど、ホネクイハナムシの根との関係を明確に表現するには、もっと明快に描きわける必要があったことに気づかされた。
手前の骨はかなり近い位置にあり、拡大された世界である。中景から背景にかけては、そうとうに遠いところにあるものたちだ。モノクロでも、その大きな差異を表現できていないのは僕の問題だ。
海底に接した部分の緻密骨が分解されないことは、全然知らなかった。なんとなく海底に溶け込んでいくようなイメージを持ってしまっていた。こういったことも、指摘されないと気づかないところである。
これらの情報を統合して、修正したのが次の画像である。
ホネクイハナムシをもう1匹増やし、海底と接する部分の緻密骨をしっかりと描き、骨の内部の有機物の詰まっているところ、そうでないところを明確に描き分けた。
ウミガメは白骨化が進んでいるが、もう少しばらばらにしたほうがいいだろう、という指摘をすでに受けている。
次の段階では、巻貝、二枚貝のスケッチを、それぞれ別々に拡大して描く。各部分のディテールを明確にしておけば、全体を描くときの助けにもなる。
このスケッチにも、迅速にロバートさんからコメントが届いた。
「早速の修正ありがとうごさいます!
非常に良くなりました!!骨内有機物の残存の程度やウミガメの白骨化の程度と骨の継ぎ目におけるバクテリアマットの具合など,私が思っている通りに(いや,それ以上に)再現されています.
拡大図と全景図の違いや骨内有機物の残存の程度は色合いでの表現になるとのこと了解です.それで問題ないです.
一点だけ,今になって少し気になってきたのが拡大骨の表面右にいる巻貝の角度が少し不自然に見えることです.巻貝をもう少し寝かせて,かつ軟体物の向きはほぼ正面だと思うので,それに合わせて貝も正面になると良いです.もし,貝殻の下側からのアングルの写真が必要であれば至急探します.
それ以外は申し分ありません.」
2017年08月09日 11:46
金沢大学のロバート・ジェンキンズ助教監修のもと、『ウミガメ骨群集』の制作を始めた。現生のクジラが死んで海底に沈むと、白骨化した後にも多くの生物が、それらを栄養分にするために集まってくる。かつての白亜紀の海でも、大型の脊椎動物に群がる生物がいて、化石にもその証拠が残っているのではないか?という研究成果をビジュアル化する目的で描いている。
白亜紀に群集を作っていた生物は、ほぼ現生種と同じであったと推測されるので、通常の復元に比べると楽な部分も多い。ただし、より正確なリアリティを求められるので、当然、難しさもある。ロバートさんは実際に海の中で鯨骨群集を観察し、ウミガメの死体を沈めその経過を記録し、研究室ではバクテリアが骨を覆っていく様を再現し観察を続けている。
メールでの依頼があってから、最初の打ち合わせは金沢大学のロバート研究室(ロバ研)にて。標本や資料を目の前にした打ち合わせは、とても効率が良い。わからないことがあればすぐに質問できるし、実際に標本を観察して撮影やスケッチを行うこともできる。その場でラフを描いて、全体のイメージを共有していくこともできる。メールでのやりとりでもある程度は可能だが、より質の高い仕事となると、直接の対話に勝るものはないと思える。
提供してもらった資料写真や、撮影した画像などを使い、最初のラフスケッチを持ち帰ってから制作したもの。
手前に大きく描いているのは、ウミガメの肋板の断面で、ホネクイハナムシが骨を溶かしながら根のようなものを伸ばしている。表面にはハイカブリニナ(巻貝の一種)とイガイ科の二枚貝、バクテリアマットがびっしりと覆っている。海底の泥にはハナシガイが潜んでいる。中景には死に絶えて海底に沈んだメソダーモケリス(オサガメの祖先型の絶滅種)が見えていて、その表面もバクテリアマットで覆われている。白亜紀の海であることをわかりやすくするため、遠景には首長竜の泳いでいる姿を配置した。
このラフスケッチに対するロバートさんからの回答が次のようなものだった。詳しく図解されたものも、後日送られてきたのだが、最初の印象としては概ね良好だったようで一安心である。
「断面も入れ込んだ複合的な絵ですね.今夜詳しく拝見させていただきますが,ぱっと見の第一印象は非常に良いです.バクテリアやホネクイハナムシの雰囲気,ウミガメの死骸の感じがとても良いと思います.
骨に付着している二枚貝はたぶんイガイ科をイメージされていると思いますが,白亜紀には化学合成を行うイガイ科が明確にはいないので削除していただくことになると思います.
また,この前の打ち合わせ時にはキヌタレガイはウミガメからは見つかっていないので不要ですと申してしまいましたが,間違いでした.元々首長竜だと思われていた骨が実はオサガメであることがわかり,それにはキヌタレガイが付着しておりました.ということでキヌタレガイ(Y字の巣穴を持つ二枚貝)も追加できるとありがたいです.追加があってごめんなさい.
細かい点はまた今夜詳しく拝見した上でメールいたします.
それにしても白黒のラフスケッチだけでも十分に雰囲気が伝わってきますね.すばらしいです.」
ここまで詳しくコメントがあり、さらにわかりやすい追加の資料があると、次の段階がスムーズになる。まだモノクロの段階ではあるが、この1枚に様々な生物の世界を表現しなくてはならない。それぞれが関係しながら、ある狭い範囲の生物層を作り出している様を、生き生きとした筆致で描くことができれば、復元画として良いものになることが想像できる。海に沈んだメソダーモケリス以外は現生種をそのまま参考にすることができるし、ウミガメの基本的な形態は変わっていないのと、ほぼ骨を描くことになるので、かなり実際に近かったであろう情景を再現できそうだ。
これらのコメントをもとに、修正したスケッチが次のものである。
現在、このラフスケッチを送った後、ロバートさんの返信を待っているところである。