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2013年3月28日
ササヤマミロス・カワイイ復元画の制作プロセス
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昨日、記者会見があり、報道でも流れたササヤマミロス・カワイイ(Sasayamamylos kawaii)
の復元画の制作プロセスを紹介する。
『篠山層群復元画丹波プロジェクト』の一環として描いたものだが、記者会見に間に合わせるために、かなり急ぎの制作になってしまった。
スケジュールがきつくなってしまった原因に一つは僕にもあり、最初のラフを送ったと思っていたのが実は送れていなくて、ぎりぎりになってしまったのである。よく確認しなくては。
これが送ったと思い込んでいた、最初のラフスケッチ。日付を見てもらうとわかるが、2013年3月21日となっている。その事実に気付いて送り直したのが24日だった。
監修は記載者でもある、愛媛大学の楠橋直さん。
メールのやり取りを抜粋すると
「犬歯が大きいことと、犬歯がその中ほどの高さのところで少し後ろへ折れ曲がるような形をしている (犬歯全体が折れ曲がると言うよりも、犬歯の前縁が中ほどの高さのところで後方へ曲がるというほうが正確かもしれません) というのもこの哺乳類の特徴です。標本で犬歯が後方へ倒れているのは保存の影響ですが、折れ曲がるような形をしていることはもともとの形態です。」
「全身骨格に関しては Mammals from teh Age of Dinosaurs のエオマイアを参考にされるのが良いと思います。ザランダレステスはちょっと特殊化していますし、Mammals from the Age of Dinosaurs にある骨格復元図はおそらくハネジネズミか何かの姿勢を参考にしていると思うのですが、篠山の哺乳類は現時点ではもっと一般的な形にしておいたほうが良いと思っています。」
他の指摘も含めて、それらを反映させたラフスケッチが次のものである。
紙に鉛筆。哺乳類の同定は「歯が命」であり、発見されているのも下顎(歯骨)なので、歯の表現はとても重要である。
さらにこのスケッチに対する修正指示メールが届く。
「非常に細かいことを言えば、下顎大臼歯は3本ともほぼ同じ大きさです。第三大臼歯 (一番後ろ) はタロニッド (この手の形の歯の後ろ半分の部分) が後ろへ少し伸びるので若干他より長くなるのですが、このスケールの絵にすると分からない程度の違いです。今の骨格図ですと第三大臼歯が他より大きく見えます。また上顎第一大臼歯のメタコーン (上顎大臼歯の頬側から見える大きな2つの咬頭のうち後ろのもの) がないようにも見えます。篠山の哺乳類は真獣類ですので、第一大臼歯にメタコーンはあるはずです。大臼歯を頬側から見た図は、Mammals from the Age of Dinosaursの496ページ、Fugure13.19のA2、あるいは301ページのFugure13.21のB2が参考になるかと思います。そこまで細かくなくても良いかもしれませんが。」
ここまでの監修を反映させてペン入れを行ったもの。しかし、大きなミスをしてしまった。
「ただ、下顎と犬歯が元に戻ってしまいました・・・下顎前方の「角」や前縁がやや後ろへ折れ曲がる大きな犬歯はこの哺乳類の特徴なので、そこがわかるとより良いかと思います。また前回気付かなかったのですが、下顎切歯間の歯隙がちょっと大きいですね。それほど歯隙はないです。」
絵があまり大きくないので微妙な表現になるが、やはり最重要な部分をうまく表現できなかったのはかなりまずい。すぐに修正をくわえる。
「あと一点だけ、もし可能ならば、なのですが、この哺乳類では歯骨のangular processが内側へ曲がっているという特徴があります。咬合面観の写真を添付します。写真下部で歯骨全体の軸からするとやや左側へ向いてとび出しているように見えるのがangular processです。また舌側面観の写真でも良く見ると手前側に向いているのがわかるかと思います(わかりにくいですが)。有袋類で良く見られる特徴で真獣類でも原始的なものにときどき見られます。」
赤丸の部分がangular process。
イヌなどの頭骨だとangular processは外側にむかって曲がるので、ついつい外向きに描いてしまっていた。実物標本を見ずに画像だけで描いてるので仕方ない部分もあるが、はたして実物化石を見て描いたとしても気がつくかどうか。さすがに鋭い監修である。
これが骨格図の完成版。ネット上でも公開されているものである。
この骨格図をもとに生体復元のラフスケッチを描く。
ネズミっぽく見てしまうということで、尻尾にも毛を生やすことにしたのが、次のラフスケッチ。
これでOKが出たので、すぐに着彩へと作業を進めた。
作業風景。
ほぼ一晩で完成。監修者からのOKも出て、無事、記者会見に間に合わせることが出来た。
グレースケールチェック。色彩の明度に破綻がないことが確認できる。
研究者から手加減なく送られてくる専門用語の洪水を読み解きながらの復元作業はとても楽しいものです。ここを面白がれるどうかが、復元というプロセスを楽しめるかどうかの分水嶺かもしれません。
自分で好き勝手に描き散らす「イメージ画」と「復元画」とは似て非なるものであることを分かってもらえればと思います。
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投稿者 corvo : 2013年3月28日 11:41