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2006年7月26日
日本科学未来館でワークショップ
今日、予告通り日本科学未来館でワークショップを行った。ここのところのぐずついた肌寒い日から一変して、よく晴れて暑い。おまけにけっこう蒸し蒸しする。コンクリートと金属の建造物で囲まれたお台場に行ったので、余計にそう感じたのかもしれない。
日本科学未来館に11時を少しすぎたところで到着。猛暑の中、駐車場への案内のために、担当者が館の外で待っていてくれた。5分ほど待たせてしまって、申し訳なかったです。
到着してすぐに、用意してきた荷物を降ろし、代車に載せて運んでもらう。その後、パソコンをつないでのスライドショーのために機材のチェック。やはりというか、いつも通りというか、ディスプレイにつなぐアナログのアダプターを忘れてしまった。幸い、ディスプレイのほうにデジタルの入力端子があり、デジタルケーブルを用意してもらってことなきを得た。
講演会場はもえる森 とける大地「マンモスからの警告」展の展示会場の一角。展示空間にあるため、ディスプレイと手元が暗く非常にやりにくい。また、展示で使っている音楽が聞こえてきて、とても気が散る。僕はできるだけお客さんの顔を見ながら話をするので、暗くて見づらいと反応が分からなくて話をしにくいのである。しかし、音楽にはまいった。何度か言葉を忘れそうになった。やはり閉じた静かな空間で、対話しながら進めていきたい。
今日も原画と骨コレクションの一部を持っていったのだけど、皆さん興味津々である。
マンモスの復元についてとはいえ、どうしても恐竜の話が中心になる。スライドショーの内容も、マンモスや象などの大型ほ乳類に少し触れるようにしたのだけど、2/3は中生代より古い古生物の話。ほ乳類についてはもっと勉強しないと、人前で話すにはまだまだである。
なんとか講演が終わった後に、ワークショップを開くための会場へ移動。大きめの教室のような部屋で、できればこちらの部屋で講演も開きたかった。
今回、このblogで紹介してきたマンモスの骨格復元図と筋肉復元図をコピーした物を全員に配布し、これをもとに復元の作業を体験してもらったのだけど、まず最初は展示中のユカギルマンモスのスケッチから始めた。こんなチャンスはめったにあるものではない。愛地球博ではベルトコンベアーに乗ってしか観賞できなかったユカギルマンモスを(地球博へは実際に見に行っていません)、約50分スケッチすることができたのである。未来館のスタッフに感謝である。ワークショップ参加者に混じって、僕もひたすらスケッチに勤しんだ。ガラス越しに見える冷凍庫に入った18000年前のマンモスの頭部。鼻はすでに欠損しているが、まぶたや外耳は生きていたときと全く同じであろう形をとどめている。
これが僕がスケッチしたもの。B3のケント紙に鉛筆(B)。会場が証明をぎりぎりまで落としているため、手元が暗くて描きにくかったが、実物を目の前にすると集中力が増してくる。ちょっと画面の上のほうに寄りすぎて、構図をミスしてしまったのが悔しい。牙の入り方が窮屈になってしまった。
参加してくれた子供たちや保護者の方も、真剣に描いている。無理な体勢を強いられる、窮屈な場所だったにも関わらず、私語もなく黙々と描いていた姿に感銘を受ける。本物の化石の持つ引力だろうか。
15時30分までスケッチをした後、ワークショップ会場へ戻って、いよいよ復元作業を始める。
まず、骨格図の上にトレーシングペーパーをのせて、骨格の輪郭をトレースする。それが全て終わった後、トレーシングペーパーを裏返し、鉛筆をこすりつけて即席のカーボン紙を作る。トレーシングペーパーを最初の状態に戻して、新しいケント紙の上にのせ、トレースした骨格の輪郭をあらためてなぞっていく。これで、ケント紙の上に骨格図を転写することができる。
親子で真剣にトレースしているところ。神経を使う作業なので、短時間とはいえけっこう疲れる。
実は言葉で説明していても、非常に面倒くさい作業である。僕はこの行程が大嫌い。できれば避けて通りたいが、そうもいかない大切な部分である。
こういった地味な単純作業をやってもらうと、それぞれに個性が出る。描き始める場所も違う。牙からだったり、頭からだったり、背骨からだったり。要領よく線を選べる子、ものすごく慎重で時間がかかってしまう子、思いもよらない輪郭をトレースしている子。千差万別で面白い。でも、もとになっている骨格図は同じである。
ただマンモスの生きた姿を描くだけなら、展示会場にあった実部大の復元模型をスケッチしたり、すでにある復元画を参考にすれば簡単かもしれない。しかし、それでは復元という作業からは離れてしまう。あくまでも化石として残された骨から出発することが大前提である。ケナガマンモスなので、最後には毛むくじゃらになってしまう。でも、骨格図から始めていることで、それぞれの関節の位置や各部の長さを意識することができる。これがとても重要なことだ。内部の構造を知っているか知らないかでは、出来上がりに大きな差が出る。内部構造が反映されていないNHKのCGは、前提から間違っているのである。
全体にワークショップの時間が短かったので、駆け足の作業となってしまったが、それぞれに楽しんでもらえたようだった。同じ骨格を使ったのに、実に個性的な仕上がりだった。
よく「自由に絵を描きなさい」という課題があるが、これは音楽で言えば「自由に作曲して、楽器で演奏しなさい」ということと同義だろう。放っておいても絵を描いているような子供は嬉々として描いてしまうかもしれないが、そうでもない大多数の子供たちは途方にくれてしまう。しかし、今回のように明確な目的をもった課題のとき、とにかく一生懸命に画面に向かおうとする。トレースという作業は窮屈だし、向き不向きもあるのだろうけど、一人としてさぼる子供はいなかった(もちろん大人も)。一人一人が自分の作業に没頭するから、おのずと個性的な結果になる。逆に、自分が何を描いていいか分からずに、上手いと思った子供の絵を真似したりしたら、それこそ同じような画面が再生産されて没個性になってしまうだろう。「自由に絵を描きなさい」とうことは、それだけのリスクを抱えているのである。
復元画のワークショップは、いつも勉強になる。この機会を与えてくださった未来館に感謝です。
なかなか一位にはなれませんが、応援よろしくお願いします。
投稿者 corvo : 2006年7月26日 22:32