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2005年7月28日

簡易裁判所

先日、友人がギャラの支払いに関する少額訴訟を起こしたため、その証人として東京簡易裁判所に出廷してきた。
この件は僕のようにフリーランスでものづくりの仕事をしている人間にとっては、重要で興味深い事案であった。
結果から言えば裁判所がすすめた「和解」でいくらかの支払いを受けることで決着したのだが、原告である友人には不本意で精神的にもつらい結果であった。そして、自分のこととして考えても納得のいくものではなかった。

当然、具体的に個人名、企業名を書くことは出来ないが、話の流れを整理しておきたいと思う。
友人はグラフィックデザインを本職としており、ウェブサイトを制作するスキルも持っているフリーのデザイナーである。友人だから贔屓していると思われるかもしれないが、極めて優秀なデザイナーである。
友人が受けた仕事は、ある中小企業のウェブサイトの制作であった。
およそ1ヶ月半ほど、自宅で仕事をしていたとはいえ他の仕事を入れることもなく、ほぼ独占的に拘束される形で作業を進めたのだが、最終的にクライアントからオーケーをもらうことができずギャラの支払いを受けることが出来なくなってしまった。
このケースで双方に落ち度があった点は、最初に契約書を交わしていなかったことである。
裁判所にいってはっきりと分かったことは、請負仕事の場合、納品が完了した時点で初めて仕事が成立したとみなされるということである。
これは当然のことと思われるかもしれないが、クライアント側から見ると、気に入らなければいくらでもだめ出しをしてもよく、成果物の受け取りを拒否し続ければ、いつまでも対価を支払わなくても良いということである。その間、仕事を請け負った側はその仕事に拘束され続けるわけである。
もちろん、クライアントの納得する成果物を納品すればうまくいくわけであるが、ウェブサイトの制作という性格上、難しい点がいくつかある。
ウェブサイトを閲覧する環境は、人それぞれ無数のケースがある。パソコンの違い、OSの違い、ブラウザソフトの違い、通信環境の違い、モニターの違い、そしてそれぞれの組み合わせで、そのバリエーションは無限ともいえるものとなる。
そういった状況で、厳密にサイト上でのデザインや色彩を決定することは不可能である。
またブラウザソフトのバージョンの違いでも、フォントや、デザインの見え方に差異が出てしまう。
そういった状況をふまえて、最高の妥協点を見つけようとするのが、ウェブサイトデザイナーの重要なスキルであると僕は理解している。
また、デザインというのは各個人の好みに大きく左右されるものであるが、デザイナーとクライアントはディスカッションを繰り返しながらより良い結果を求めていく。このやりとりがうまくいかないと、両者にとって非常にストレスのたまるものになってしまう。
ウェブサイトというものは絶えず更新、追加していく前提のもので、流動的な 表現形態である。そういった点からも、頑ななイメージを持ってデザインを決定しようとすることは、とても危険なことであると僕は思う。
当然、デザイナーである友人は閲覧者にとって利用しやすいサイトの構築とデザインを目指したわけだが、クライアント側にその意識は低かったようである。最適な妥協点を見つけることよりも、クライアントが求めるデザインを、強行に推し進めようとしたことが不幸であった。僕は具体的にデザインの経過と、やりとりの詳細を知っているのだけど、客観的に見てもクライアントがかなりの無理を押し通そうとしていたようである。
決定的であったのは、検索エンジンの「グーグル」でクライアントが指定したキーワードを入力したときに、上位に検索されることを求めたことである。そして、この結果をもって成果物の受け取りとすると主張した点である。
おそらく多くの人が疑問に思うことだろう。
「グーグル」で検索して上位に表示されるようにすることは、ウェブデザイナーのスキルとは全く別の物であり、ウェブサイトを制作することとは全く違う業務なのである。
こういったことは「検索エンジンの最適化」と呼ばれるものだが、その検索結果をコントロールすることはほぼ不可能である。
僕から見ると、無理難題をふっかけて成果物の受け取りを拒否したと思えたわけである。

このクライアントは友人の制作したウェブデザインを使用していない。その点からは支払いの義務はない。
しかし、1ヶ月半という長期にわたって様々な要求を続けた事実がある。そして、友人は誠実にすべての案件に対して応えていた。間違いなく作業をした事実がある。
やはりここで問題になるのは契約書がなかった点である。クライアントは仕事を依頼したことは認めている。ただし、法律的には請負仕事であるということで、納品された時点でないとギャラが発生しないのだ。
作業をした事実は間違いなくある。途中の段階でほぼ完成されたウェブサイトも出来ていた。
それでもクライアントが気に入らないといえば、受け取りを拒否してギャラの支払いも拒否することができる。
これでは僕たちのようなフリーランスの人間は、とても仕事がやりにくくなってしまう。
そこで重要になるのが契約書の存在だろう。
仕事を受ける前に、成果物の引き渡し以前であっても労働の対価に見合う金額を保証金として受け取れる契約を結ぶしかない。
今回の事では、本当にたくさんのことを勉強することができた。友人に感謝しなくてはいけない。
フリーランスで仕事をしていく以上、いつ自分の身に降りかかるかもしれない。この事例が同じような立場の人たちにすこしでも参考になればと思う。

異論、反論、なんでも良いのでコメントいただければ幸いです。

投稿者 corvo : 2005年7月28日 08:14